大阪社保協通信  1165号 2017.9.6

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大東介護保険・総合事業問題で831日市交渉〜『上から目線』の自立支援押しつけ、交渉途中で逆ギレ。91日大阪社保協「大東現地調査団実行委員会」結成、1117日実施!

★大東市交渉に50人参加

 831日、大東社保協・大阪社保協は、市当局と「介護保険・総合事業の改善を求める要望」についての交渉(回答懇談会)を行い、大阪社保協と北河内ブロックを含め50人が参加しました。大東市側は大石高齢介護室長と逢坂参事他1名が対応。2時間程度の予定であったものを大東市側が「次の予定があるので1時間にしてほしい」としたため、かなり省略した話し合いとなりました。

 

まず「生活サポーター」(有償ボランティア)ありき

 利用者のサービス選択権を尊重し、「現行相当サービス」の利用を制限しないよう求めました。

大東市の回答は「総合事業につきましては、サービスの利用を制限するのが目的でなく、自立支援に資する取組を推進し、介護予防の機能強化を図るもの」というものでした。

 社保協側から、要支援者が現行相当サービス(ヘルパー、デイサービス)の利用が制限されている事例が出されました。とくに、ヘルパーが利用できず「生活サポーター」(住民主体B型・有償ボランティア)に回されている事態が紹介されました。「ヘルパーが入れず生活サポーターになり、水分補給等のケアができなくなり、熱中症、脱水症状の人が増えた」「腰椎圧迫骨折の要支援者に現行相当サービスの利用が認められず、生活サポーターが対応できないため、訪問看護が食事の準備をしている」などです。

大東市は、「新規の人には、まず、生活サポーターを利用していただく。継続の方には、生活サポーターを提案している」とし、対応できず専門職によるサービスが必要と判断されればヘルパーによる対応もあると述べるにとどまりました。

 

要介護認定申請

要介護認定申請の制限を行わず、すべての相談者には、要介護認定申請を案内するよう求めましたが。大東市の回答は「迅速なサービスの利用を可能とするために、基本チェックリストの利用を勧めています」というものでした。

しかし、現場からの声として、「窓口まで歩いてきた人に『申請できません』と断った」「ケアマネジャーへの締め付けで『認定申請代行すると目を付けられる』という意識が広がっている」「認知症の人にも『トイレまで歩いて行けるのなら申請は必要ない』とさせてもらえなかった」などの例があります。

これに対し、大東市は「断ることはしないはず。そう受け止められているとすれば窓口での言い方の問題なので、伝える」とのべましたが、問題となっている「窓口対応マニュアル」の見直しについては否定しました。そればかりか「認定申請で40日待つのとチェックリストでその日に事業対象者となるのとどちらが便利か」と問題をすり替え、「認定で上がってくる主治医意見書の大半はリスク情報などの記載がなく認定必要しか書かれていない」など医師の意見書を愚弄するような発言も繰り返しました。

 

卒業強制、「自立」押しつけ問題 

 サービスからの「卒業」強制について、「インスリン投与が必要な状態で退院。軽度の認知症もあるため、指導の為訪問看護を計画したが、継続的なサービス計画を立てるべきではないと市から指導された」、「更新時、要介護から要支援になった。デイサービスの中止を提案されたが、デイサービスに行っている日が家族にとって唯一のレスパイトケアであったため、市に直談判して継続してもらえるようになった。直談判できない人はあきらめているのではないか」「デイを卒業しても一人で外出できない人がいる、閉じこもっている」などの事例をあげて大東市の見解を質しました。

 大東市は「平成28年度の一時期に卒業の強制があったことは事実です。その時にそうしたことがないようにケアプラン担当に徹底したが、最近も一部にその傾向があったので再度7月にケアプラン担当者を集めて周知徹底した。本人・家族の同意を得ること、担当一人で判断しないこと、卒業する人のその後の状況を把握することなどを伝えてので、今後は卒業強制はないと思う」と答えました。

 しかし、NHKクローズアップ現代で紹介された2つの事例については、大東市の責任を断じて認めようとしませんでした。特に、医師の指示した通所リハビリの利用ができず、症状が悪化し短期間のうちに要支援1から要介護5になった人については「あれは本人の医療拒否があった」などと自己責任にするような発言があり、参加者との間で議論になりました。

 交渉開始後1時間を過ぎた時点で、対応していた参事は、やり取りが途中であるにもかかわらず「時間ですし次の予定がありますので」と一方的に席を立って会場を出ていったのです。参加者から「逃げるのか」と声が上がると、今度はドアを開けて入ってきて参加者をにらみつけ「逃げていません!」と捨て台詞をはいて立ち去りました。

 参加者からは「あれが公務員のとる態度か」と怒りの声が上がっていました。

 大東社保協は、交渉が途中で終わっていることもあり、再交渉を行うよう当局に求めています。

                         (日下部雅喜 大阪社保協介護保険対策委員長)

 

大東市介護保険・総合事業問題現地調査団の取り組み

819日の「2017年度大阪社保協第2回幹事会」において、大阪社保協としてこの大東市介護保険・総合事業問題に「現地調査団」を大規模に結成し取り組むことを決定。91日急ではありましたが、「現地調査団実行委員会」を立ち上げました。概要は以下です。

9月29()18:30- 大阪民医連において第2回実行委員会を開催しますので、各地域社保協及び各団体から多数ご参加いただきますようお願いいたします。

9月1日 第1回実行委員会で決定したこと

◆実行委員長 新井康友 佛教大学社会福祉学部准教授

◆日程 11月17日(金)大東市民会館集合

  午前 全体集会 NHKビデオ 現地説明、学習

  午後 現地調査

     1 介護事業所・障害福祉事業所等 訪問・聞き取り調査

     2 NPO、集いの場(元気でまっせ体操)訪問・見学

     3 大東市出前講座

     4 その他

     大東市と交渉

     全体集会(まとめ)

     終了後 報告書を作成・発行

◆規模、組織化  200300人規模の調査団を結成する

         社保協近畿ブロック・中央社保協にも呼びかける

◆大まかな日程

  9月上旬 現地調整  要綱・第1弾チラシ作成

  9月7日 大東市問題対策会議 午後6時 協立診療所 

  9月25日 北河内ブロック拡大会議で具体化

◆第2回 調査団実行委員会 9月29日(金)午後6時30分大阪民医連会議室

 

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★参考

自治体による「自立」「卒業」の強制〜「改定介護保険の先取り、大阪府大東市の実態と問題点」

 

はじめに

 7月19日、NHKの「クローズアップ現代」は、介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」)が「もっともうまくいっている自治体」として大阪府大東市を紹介した。

「大東元気でまっせ体操」と住民ボランティアによる「生活サポート事業」によって元気な高齢者が増え、地域の支え合いが進み、介護費用の削減できている、といった紹介がされた。しかし、番組後半で取り上げられたように、デイサービスからの「卒業」(強制的な打ち切り)で行き場所を失い、孤立する人や、週1回の通所リハビリテーションの利用すら認められず、閉じこもり生活になって病状が悪化し、わずか1年で要支援1から要介護5まで重度化した「被害者」も出てきている。

 この大東市の「自立支援」の取り組みは、2017年4月から全国の自治体で実施された要支援者のサービスの一部を市町村事業に移行する総合事業の「模範例」とされ、さらに今年5月26日に成立した「地域包括ケアシステム強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」(以下「改定介護保険法」)で打ち出された「介護予防・重度化防止のための保険者機能強化」の「先進例」とされている。今後、総合事業が本格化し、来年度から改定介護保険法が施行され、全国の自治体が「保険者機能強化」として「自立支援」型の介護保険運営をめざしていくことになれば、大東市で起きている事態が全国の自治体で起きかねない。

 

1 大東方式の特徴と問題点  「元気でまっせ体操」を卒業の受け皿に 

大東市は人口約12.2万人、高齢化率は約26%(約3.2万人)で大阪市のベッドタウンの一つで市域は奈良県と隣接している。

大東市の高齢者施策の最大の「セールスポイント」は、市の理学療法士が考案した「大東元気でまっせ体操」である。「効きまっせ、若ぅなりまっせ、寝たきりにならんで儲かりまっせ」の合言葉で、市内で約100ヶ所、千数百人が参加しているという。大東市は早くから二次予防事業(要介護状態になるおそれのある高齢者を対象に自治体が行う介護予防事業。一般高齢者対象は一次予防事業)をやらず、この「大東元気でまっせ体操」による地域づくり・住民主体の取り組みを行ってきた。国が2014年法改定で二次予防事業を「非効率」として廃止し一般介護予防事業に再編し、地域リハビリテーション推進事業を制度化すると、大東市は自らの「先見性」に確信をもつことになった。総合事業移行にあたって多くの自治体が、現行相当サービスに基準緩和型サービスを加えて緩やかな移行に踏み出そうとしている時に、大東市は、徹底した「自立」、「サービスからの卒業」路線を打ち出すに至った。

大東市は「元気でまっせ体操」の場を「要支援者はデイサービスに行かなくても通いの場に行けば大丈夫」「介護保険を卒業する人の受け皿」と位置付けている。

 

市がケアマネジメントに介入・統制

 2016年4月に総合事業に移行した大東市では、要支援者のケアプラン(予防プラン)はすべて地域包括支援センター(委託3か所)で作成することにし、居宅介護支援事業所のケアマネジャーは関与することができなくなった。さらに、従来のホームヘルプ・デイサービス(現行相当サービス)を利用するには市と「協議」が必要になった。

 「地域ケア会議」では、自立支援マネジメント事例検討会を居宅介護支援事業所、地域包括支援センターの参加で行い、さらにすべての総合事業プランを市のリハビリ職・保健師がチェックするなど、市が全面的にケアマネジメントに介入し統制するシステムを作り上げている。さらに今年5月には要介護1、2のケアプランの全件点検も実施した。

 

要介護認定申請をさせない振分けシート

 大東市の「相談窓口対応マニュアル」では、相談を受け付けた場合、要介護認定を案内する振分け基準の1番目に「一人では歩けない(杖をついたり、歩行器を使用しても歩くことができない場合)があげられるなど、認定申請の抑制が行われている。実際に「窓口まで歩いてきた人が『申請できません』と断られた」「認知症の人にも『トイレまで歩いて行けるのなら申請は必要ない』とさせてもらえなかった」という事例があり、ケアマネジャーへの締め付けが強く「認定申請代行すると目を付けられる」という意識が広がっている。2016年4月から2017年2月まで11か月間で、要支援・要介護認定者数は10.5%減少し、とくに要支援1は▲32.3%、要支援2は▲26.0%と激減している。

 

「卒業加算」「移行加算」地域包括支援センターへのアメ

地域包括支援センターが「がんばる仕組み」として、「卒業加算」(サービスから卒業−1年以上サービス利用なし、地域の見守りと活動参加が条件)、「移行加算」(訪問・通所サービス現行相当から緩和型サービスに移行した場合)を設け、100人以上卒業・移行すると200%加算率とした。予防プランを担当する地域包括支援センターを加算というアメでつって卒業・移行へ駆り立てようというのである。

 

卒業・移行が少ないと「指定更新しない」−事業者へのムチ

訪問・通所サービス現行相当の指定事業所は、2017年度末で「みなし指定」期限が切れるが、大東市は、総合事業移行時の利用者の30%以上を卒業もしくは緩和型サービスへ移行していないと「指定更新しない」としている。サービス事業所は指定更新されないと2018年度からは要支援の利用者は一人も受け入れられなくなるので、有無を言わさずこれに従わされることになる。まさに、サービス事業者をして利用者を卒業・移行させるムチである。

緩和A型通所サービスも「卒業」に

 多くの自治体では、総合事業で現行相当のサービスが利用できなくなり「基準緩和A型」に移行させられることが問題となっているが、大東市では、緩和A型の通所サービスも原則「3ヶ月で卒業」とされている。市の担当者の説明では「カラオケやレクレーション、マッサージなどは禁止で『楽しくないデイ』」とのことで、「元気でまっせ体操」の通いの場に移行させるためのサービスである。

 また、市の指導を受けて予防プランを担当している地域包括支援センターが通所リハビリ事業所に対して「3ヶ月で卒業して『近くの元気でまっせ体操』に通ってください」と言い、通所リハビリの担当者が「体操の場所まで歩いて20分。そんなに歩けません」と抵抗すると、「3ヶ月で20分歩けるようにしてください。それがプロです」と説教されたという例もある。

 

ホームヘルパー利用も制限

 訪問型サービスでも、新規利用者を中心に従来のホームヘルパー利用が予防マネジメントで認められなくなり、住民主体B型訪問サービス(生活サポート事業)へと回されている。生活サポート事業は市内のNPOに委託しているが、30分250円の有償ボランティアで、困難な生活課題を抱えた利用者には対応できない。現場では、「腰椎圧迫骨折の要支援者に現行相当サービスの利用が認められず、生活サポーターが対応できないため、訪問看護師が食事の準備をしている」、「糖尿病だが、更新で要支援になった人が現行相当のデイサービスを利用させてもらえず、生活サポーターが家事援助しているが服薬のケアができなくなった」「現行相当のヘルパーもデイサービスも使えなくなった要支援者が小規模多機能型居宅介護に回されてくる」など多くの問題が発生している。

 

孤立化・重症化した「被害者」も

 糖尿病による末梢神経障害で歩行困難になり、入院治療し「要支援1」で退院されたAさんは、主治医から通所リハビリの利用でリハビリと入浴を指示された。ところが大東市はこれを認めず、自分で「大東元気でまっせ体操」を自宅で行うよう指導し入浴は自宅の風呂場の住宅改修ですまされた。しかし、Aさんは体操どころか入浴も4ヶ月以上できず糖尿病も悪化し足指が壊死する状態になり、さらに他の病気も併発し入院となり、現在は「要介護5」まで悪化した。これは昨年8月に大阪社保協に相談があり、大東市の問題を取り組む契機となった事例であるが、大東市の介護保険運営が、「自立」一辺倒で本人の基礎疾患も無視して必要なサービス利用を認めなかったために起こった不幸な事件である。本人・家族も勇気を出してNHK「クローズアップ現代」の取材に応じていただいたが、大東市の誤った「保険者機能」によって奪われたものはあまりにも大きい。

 

大東市に改善求める運動広がる

 この相談をきっかけに大阪社保協では、大東社保協、民医連加盟の協立診療所、共産党市会議員団とともに「大東市介護保険問題対策会議」を発足させ取り組みをすすめてきた。今年4月22日に「大東市の介護保険・総合事業の1年を検証する集会」を250人の参加で成功させ、6月17日には市内事業者によびかけて「大東市介護保険問題を考える懇談会」を開催し、大東市には「改善を求める要望書」を提出し8月31日には「交渉」を行った。

 容易に問題点を認めず、「被害者」への謝罪すらしない大東市に対し、今後大阪社保協として、大規模な「現地調査団」の取り組みを行い、大東方式の転換を求めていくことにしている。

  (日下部雅喜 大阪社保協介護保険対策委員長)

 

※クローズアップ現代の公式ページ   当日の内容が全て文字になっています。

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4010/

 

※放映内容

https://www.youtube.com/watch?v=Y0abWVqaZBs