大阪社保協 FAX通信   1063号 2014.1.23                                      

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「滞納処分・差押問題 国保西日本交流集会」に143人が参加〜鳥取児童手当差押事件高裁判決を活かす活動を全国で!!

118日、社保協近畿ブロック主催「滞納処分・差押問題国保西日本交流集会」が大商連会館で開催され、20都府県(石川県、福井県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、岡山県、広島県、鳥取県、香川県、福岡県、熊本県、大分県、佐賀県、神奈川県、東京都、静岡県)および中央団体から143人が参加しました。

★講演@「滞納処分の基礎知識とたたかいの到達点」(楠晋一弁護士)

楠弁護士は「住民運動のための国保ハンドブック」を使いながら、「滞納処分とはなにか」「差押えとはなにか」「差押禁止財産とは」など、まず滞納処分の基礎知識について話をすすめました。

 「行政は『法律による行政』という絶対的なルールがあるが、そうなっていないケースが多々あり、そのためには『住民側に違法行為を監視する』活動が必要となる。監視するためには住民自身が@法律や通達など関係法令を知る(丸めこまれないよう理論武装)A追及する前提となる事実・証拠をつかむB違法行為を監視していることを役所に知らしめることが前提となる。そのためには、@専門家(弁護士、税理士、地方議会議員、現役の行政職員、職員OB)との連携、勉強会の開催等、A自治体の情報公開請求制度の活用、役所への質問状・情報提供の依頼など入手したデータの分析B役所との定期的な懇談(時には対決)などが必要だ」と楠弁護士は強調しました。

さらに、「差押えにはルールがある」こと、さらには特別法によって「差押え禁止財産」が規定されており、高額療養費、傷病手当などの健康保険給付、生活保護費、障害者自立支援給付、児童手当、児童扶養手当、養育医療費、後期高齢者医療給付、雇用保険給付などは金額にかかわらず差押えをすることができないこと。

しかし、現実的には差押え禁止財産であっても、通帳に振り込まれたとたん、差押え禁止財産ではなくなり、差し押さえることができる、と、全国の自治体の職員はそう思っており、そして差し押さえています。その根拠としてるのが平成10年の最高裁判決であり、その内容について、楠弁護士が詳しく解説しました。

端的に言うと、「差押え禁止財産であっても、預金にはいってしまうと、いろんお金がごちゃごちゃしてしまって、何のお金かわからなくなるので、その預金はもう差押え禁止財産ではなくなる」という理屈。平成10年のその裁判での通帳がいろんなお金がはいっている預金だったためです。

★特別報告「『鳥取県児童手当事件』闘いの歩み」(鳥取県民主商工会連合会 川本善孝事務局長)

そして去年の11月、その最高裁判決を打ち破る画期的な判決がでました。それが「鳥取児童手当差押事件」高裁判決です。この判決について、「『鳥取県児童手当事件』闘いの歩み」として、現地鳥取県民主商工会・川本事務局長から、事件はどんな経過があったのか、裁判はどう進められたのか、同時進行で国会でどんな質問がされ、地域でどんなたたかいがあったのかというお話をとてもリアルに語っていただきました。

なんといっても素晴らしいのは、川本さんが、原告が「児童手当が鳥取県に差し押さえられた!!」と民商に飛び込んできたその日に早速、同行して鳥取県に抗議/要請に行かれたことです。この時の議事録を鳥取県が作っており、そのやりとりの中で鳥取県が、「児童手当と認識している」と答えたことが明記されており、後の裁判で証拠として決定的な威力を発揮することになるのです。

★講演A「違法な差押えの是正に向けて〜鳥取県児童手当差押え事件判決を活かす」(勝俣彰仁弁護士)

続いて、弁護団の勝俣弁護士から「違法な差押えの是正に向けて〜鳥取県児童手当差押え事件判決を活かす」と題して、一審(地裁)判決と二審(高裁)判決の内容と意義を詳しくお話いただきました。

 

この事件の概要は以下です。

鳥取市在住の自営業者の男性が、自動車税・個人事業税等の県税を滞納していたところ、鳥取県税事務所が平成20年6月11日、「差押え禁止財産」である児童手当金の振り込みが行われた直後に男性の預金を差し押さえたことは「受給権の侵害」にあたり違法であるとして差押処分等の取り消しと差し押さえられた児童手当金の返還、国家賠償法の慰謝料を請求した裁判。

 

「高裁判決文」では、

@   処分行政庁は、本件差し押さえ処分の時点で、平成20年6月11日に本件口座に本件児童手当が振り込まれることを認識していたと認めることが合理的である

A   処分行政庁において本件児童手当が本件口座に振り込まれる日であることを認識したうえで、本件児童手当が本件口座に振り込まれた9分後に、本件児童手当によって大部分が形成されている本件預金債権を差押えた本件差押処分は、本件児童手当の部分に関しては、実質的に本件児童手当を受ける権利自体を差押えたのと変わりがないと認められるから、児童手当法15条の趣旨に反するものとして違法と認めざるを得ない。

 

とかかれています。

判決文はとても回りくどい文章ですが、高裁判決は、差押禁止債権は預金口座に振り込まれても差し押さえてはならないと判断しました。差押禁止の趣旨を正しくとらえた常識的な判断です。これは児童手当だけではなく、全ての差押禁止債権に当てはまる判断です。

勝俣弁護士は、「この高裁判決で風穴を開けた。今回“高等裁判所が”差押禁止債権の属性を承継すると明示し,実際に児童手当の返還を命じて,最高裁判決の限界,預金差押許容説の限界を厳に示した。最高裁判決があり預金差押許容説もあったから不法行為とはならないという論理は“本件まで”しか使えない。今後はこれまでとは異なり,高裁判決がある以上,預金となったからといって漫然と差し押さえることは許されない。」と強調しました。

さらに、行政訴訟の場合、処分に対する不服審査請求を先にしておかなければ、裁判で争うことができません。この事件の場合、「差押処分」と「配当処分」の2つの処分に対して不服審査請求をしておかなければならないのですが、後者に対して審査請求するなど普通は思いつきません。しかし、一審では画期的な判決がでていて、「後者については行政庁に対する審査請求手続きを経ないでその取り消しの訴えを提起することができるとするのが相当」としました。ただ、二審ではこの件については却下したものの、その代わり、

「取立てに係る金員を保持する権限を課税主体に与えるものではないのであって,仮に本件差押処分が違法であることによって,滞納者が財産的損害を被ったり法律上の原因なく損失を受けたりしたというのであれば,本件差押処分の取消し等を経ることなく,不法行為に基づく損害賠償請求あるいは不当利得返還請求の方法によって,滞納者の損害ないし損失の回復を図ることが可能であると解されるから,本件差押処分の取消請求に係る訴えの利益を否定したとしても,滞納者の権利利益を回復することは可能であるといえる。」としました。

つまり、行政訴訟で「差押処分の取り消し」をしなくても、民法にもとづく「損壊賠償請求」とか「不当利益の返還請求」をすればいいとの判断です。そうなると、不当利得であれば10年の時効となるので、いまからでも民事手続きで争うことが出来る案件が出て来る可能性もあります。

勝俣弁護士は最後に、こう強調しました。

「常識的な感覚を大事にしてほしい。全国で行われている年金や児童手当が口座に入った途端に全額差押えているような事例、常識的に考えておかしい差押えは違法だとしてとり戻すべきだ。そして、今後なされたおかしな差押えについては直ちに利息をつけて返還請求をすべきだし、あわして損害賠償請求もすべきだ。鳥取で風穴をあけた。この鳥取の判決を活かすのはこれからだ」と。

★午後は質疑と指定報告2本と全体討論

午後の部は、まず午前中の講演に対する質疑があり、2本の指定報告(@「保険証はいのちのパスポート〜短期証の窓口留め置き・1ケ月短期証交付は許されない」石川県社会保障推進協議会・寺越博之事務局長、A「神戸市の国保改善運動〜国保料の基礎控除後所得方式への移行と神戸市独自の控除方式」                     兵庫社会保障推進協議会・高山忠徳事務局次長)がありました。

 

さらに全体討論では以下の発言がありました。

◆@名古屋市国保料算定方式変更A名古屋市国保資格証明書交付者の『特別な事情』問題について         

   (愛知社保協・日下紀生さん)

滞納処分のたたかいの現場と考え方 (枚方市・枚方交野民商 広原秀憲さん)

@広島市における国保料の滞納処分としての年金差押、配当事件についてA広島市における市税・国保料・保育料等の窓口一本化の動きについて(広島民商 河辺尊文さん)

京都府地方税機構で働くものとして(京都府職労 木守保之さん)

国保都道府県単位化の動向と今後の中央社保協としての運動方針(中央社保協国保部会委員 神奈川県社保協 佐々木滋さん)

地方議員として「大津市の国保をよくする会」とともに活動してきた成果と課題について

(日本共産党大津市会議員 石黒賀津子さん)

 ◆枚方市に対して鳥取県児童手当差押裁判判決に沿った行政運用を行うよう要望書を提出

  (枚方交野生健会 森田みちこさん)

本日の交流集会をたたかいにつなげる!!(福岡県社保協 長野美智子さん)

動き始めた地域社保協〜福岡市の実態 (福岡市南区社保協 福山慶司さん) 

 

  鳥取児童手当差押事件高裁判決を活かすために〜早速、大阪社保協として府内全市町村国保収納課長あてに「要望書」と「資料集」を送付。大阪市国保収納対策課長「あの判決は特別なケース」と認識。

大阪社保協では、高裁判決を活かすために、早速「『鳥取県児童手当差押事件高裁判決』をふまえ今後の滞納処分に関する要望書」を作成、「滞納処分・差押問題資料集」とともに大阪府内全市町村の国保収納担当課長宛送付しました。さらに、大阪市に対しては大阪市役所に出向き、国保収納対策課の中谷課長に直接手渡しました。

 中谷課長は、「判決はもちろん知っているけれど、あれは特別なケースでしょ」という反応。しかし、判決文はまだ入手できておらず、読んでいないと言うことでしたので、資料集に入っていると伝えると、「早速よみます」とのことでした。

 法令をよく勉強している大阪市でさえこのような状況ですから、市町村の担当課に判決文そのものを渡し、そこに何が書いているかを理解してもらうことと、さらに要望をしていくことの重要性を今日痛感しました。

 なお、資料集についてはあまり在庫がありませんが、1冊送料込み1000円でお分けしますので、ほしい方は、@氏名 A冊数 B送り先住所を明記の上、大阪社保協までFax06-6357-0846またはメールosakasha@poppy.ocn.ne.jpあてお送りください。

 

 

                                                         

 2014123

大阪府内市町村国保収納担当課長 

                               

                大阪社会保障推進協議会

                                                               会長 井上 賢二

                                         

「鳥取県児童手当差押事件高裁判決」をふまえ今後の滞納処分に関する要望書と資料送付について

 

住民の暮らしを守っての貴職の日頃のご尽力に敬意を表するとともに、大阪社保協の活動にご理解・ご協力いただいておりますことに厚くお礼申し上げます。

さて、118日に、大阪で社保協近畿ブロック主催「滞納処分・差押問題国保西日本交流集会」を開催し、全国20都府県の社保協が集い学び合いました。本日、当日の資料集を送付いたします。

これまで、全国の自治体では、差押禁止債権でも銀行口座等に入ってしまえば一般財産化し、差押禁止の性格を承継しないので差押えができるという平成10年の最高裁判決を「錦の御旗」として差し押さえてきたという実態があります。(資料集5頁の楠弁護士レジュメをご覧ください)

しかし、昨年11月の「鳥取県児童手当差押事件」高裁判決は、差押禁止債権は預金口座に振り込まれても差し押さえてはならないと判断しました。差押禁止の趣旨を正しくとらえた常識的な判断です。これは児童手当だけではなく、全ての差押禁止債権に当てはまる判断です。

さらにこの高裁判決は、差押禁止財産の預金口座振込み後の差押えについては、損害賠償請求または不当利得返還請求という民事手続きで被害回復ができるとし、実際に県に返還を命じています。そうなりますと、不当利得であれば10年の時効となりますので、いまからでも民事手続きで争うことが出来る案件が出て来る可能性もあります(資料集30頁からの勝俣弁護士のレジュメ、および67頁からの判決文全文をお読みください)

つきましては、鳥取県児童手当差押事件高裁判決をふまえ、今後の滞納処分について以下のように要望します。

 

1. 鳥取県児童手当差押事件高裁判決を踏まえ、差押禁止財産が預金口座に振り込まれたものと判別できる財産は、預金口座振込後も絶対に差押えしないこと。

2. 年金・給与については全額すべてが差押禁止財産とはならないが、法令で定められた差押禁止額を順守すること。

3. 滞納の背景には被保険者の生活そのものが破たんしているケースが多々ある。納付相談だけでなく、借金の整理や生活を再建するための総合的な生活相談を行い、一方的な差し押さえを行わないこと。

4. 滞納処分の停止については速やかに行うこと。