大阪社保協FAX通信   1048号 2013.8.6

日下部雅喜氏の投稿「社会保障国民会議報告書を斬る」(第二回)を掲載します。

Fax通信1047号に引き続き、大阪社保協介護保険対策委員の日下部雅喜氏の投稿を以下掲載します。太ゴシック部分は大阪社保協でつけました。

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社会保障国民会議報告を斬る(第二回)

82日の第19回社会保障制度改革国民会議公表された各論報告書案の中から介護保険制度にかかわる部分を分析してみた。

 

★その4 特養からの軽度者追い出しとデイサービス切り捨て

 国民会議報告書案は、「介護を要する高齢者が増加していく中で、特別養護老人ホームは中重度者に重点化を図り、併せて軽度の要介護者を含めた低所得の高齢者の住まいの確保を推進していくことも求められている。」と決めつけている

 現在でも、軽度者(要介護1、2)に人は、特養への新規入所は絶望的であるが、さまざまな事情で在宅生活ができない人など10数パーセントの軽度者が入所している。もともと介護保険法は施設サービスを利用する権利(受給権)は要介護1から認めているから当然である。

 国民会議報告書案は、要介護高齢者が増加していくから、もはや軽度者の居場所は特養には与えられない、と一方的に線引きをはかることを宣言している。そして、軽度者については「住まい」の問題として矮小化し、低所得者の住まいが確保できれば特養入所は不要になるかのように決めつけているのである。

 要介護1や要介護2であっても常時見守りや声かけ、介護が必要な高齢者はいくらでも例がある。これらの人々は単に「住まい」さえ与えれば自立生活ができるというものではない。特養の持つ介護環境と常時の介護と相談員などの援助が欠かせない人々を施設から放り出すような改悪は到底認められない。

 特養への軽度者利用を排除しようとすれば、場合によっては法改正も必要になるが、省令・告示での対象要件を狭めることや、かつて厚労省が示した、施設利用者の給付のうち居宅の利用限度額超過相当分の負担割合を引き上げるなどさまざまな手法が考えられる。

 どれひとつ具体化させないために、これも20254月直前までの粘り強いたたかいが必要になる。何よりも施設関係者が利用者の声なき声を代弁して立ち上がることが求められている。

 

いわれなきデイサービス切り捨て

 国民会議報告書案は、「また、デイサービスについては、重度化予防に効果のある給付への重点化を図る必要があろう。」と、とってつけたように、デイサービスに大ナタを振るって切り捨てることを提言している。この前後にはなんの脈略もない。

 それもそのはず、デイサービス(通所介護)については、政府の資料で、「通所介護の給付費が急増し、介護老人保健施設の給付費を抜いた」という、ことだけを問題意識にしているからである。急増するサービスは抑え込むという単純かつ貧困な発想しかない。

 2012年介護報酬改定では集中的に切り下げられたデイサービスであるが、一方で介護者のレスパイトに資するとして長時間化(12時間まで)が図られてきた。また、脱法サービスであるが、行き場のない高齢者を対象に「お泊りデイ」も増加している。

 国民会議の「有識者」たちは、このような実態は全く無視し「重度化予防に効果のある給付への重点化」=重度化予防に効果のないデイサービスは給付削減か対象外、という暴論を書きこんだのである。  

そもそもデイサービスは通所リハビリテーションと機能は違う。「預かり」「お世話をする」ということが基本的な機能である。これをとってつけたようにいきなり「重度化予防に効果のある給付」に限定するような提言は断じて認められない。

 通所介護(デイサービス)の切り捨てと変質は、2015年度報酬・基準改定まで継続する課題である。ぜひ、デイサービス関係者がこの不当な評価と切り捨て攻撃に対し、利用者家族とともに反対運動に立ち上がっていただきたい。

 2012年度報酬改定では、提供時間で線引きされ、今回は「重度化予防」でふるいにかけられる。地域に必死にニーズにこたえるためがんばってきたデイサービス関係者をこれ以上、政府の好き勝手な施策で翻弄することは許されない。

 

★その5 際限のない介護保険料上昇に無為無策 

国民会議報告書案は、介護保険料については

 「低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大を抑制」する観点からは、今後の高齢化の進展に伴う保険料水準の上昇に対応するため、低所得者の第1 号保険料について基準額に乗じることにより負担を軽減している割合を更に引き下げ、軽減措置を拡充すべきである。」

 としている。

 一見すると、負担能力に応じて介護保険料を軽減する提言のように読める。しかし、現行の介護保険料の仕組みのもつ根本的問題について、全く手をつけないまま、わずかな「低所得者対策」で問題をごまかそうというものである。

 65歳以上の第1号保険料については、基準額で月4972円(第5期全国平均)に達し、高齢者の負担の限界となっている。これが、厚労省の「改革」後の試算でも2025年には月8200円に上昇するとしている。

 介護保険料は、高齢化が進展し介護サービス利用者は増大すればこれとリンクして高齢者の介護保険料が際限なく引き上げられる仕組みである。「給付と保険料負担」の連動が保険料上昇の原因であり、保険料上昇を抑えるためには、国庫負担をはじめ公費負担を増やす以外に方法はない。

 しかし、国民会議報告書案は、社会保険方式を「自助の共同化」などといって、公費負担の拡大を否定している。現在、介護保険では低所得者の第1号保険料は、最低ランク(生活保護・非課税世帯の年金80万円以下)でも基準額の0,5を徴収することになっている。国民健康保険料が0.3、後期高齢者医療保険料であれば0.1までの低所得者軽減の仕組みを持ち、さらにその財源が公費であることを考えると、介護保険料の低所得者軽減は社会保険制度のなかで最悪であろう。

 低所得者の割合を「更に引き下げ、軽減措置を拡充すべき」というのは当然すぎることである。これから際限なく上昇しようとする介護保険料を前にこれ以上無為無策をつづけることは許されないからである。

 そもそも、昨年の社会保障税一体改革で、消費税10%への増税時の「低所得者対策」として、すでに第1号保険料の低所得者軽減はメニューに入っている。国民会議報告書案のいう低所得者軽減がこれを超えるものを指しているか疑わしい。

 介護保険料の低所得者軽減の最大の問題は、どれだけの対象者にどれだけ下げるか、その財源のために公費をどれだけ負担するかである。これについては、報告書案はまったく触れていない。しかし、国民会議の議論の中で、「低所得者」のとらえ方について、「所得だけでなく資産も」といった主張が公然と行われ、施設利用者の食費・居住費負担ではこれが報告書案に明記された。このことを考えると、保険料の「低所得者軽減」もその低所得者の要件に、資産等(自宅・預貯金)がつけられる可能性がある。現に、一部の自治体で行われている低所得者の独自減免制度の多くは、資産、扶養をその要件としている。これをたんに国制度に付け替える程度の水準の低所得者軽減にしてはならない。

 

 第2号保険者(40歳〜64歳)の「介護納付金」について国民会議報告書案は「第2 号被保険者の加入する医療保険者が負担する介護納付金については、現在、第2 号被保険者の人数に応じたものになっており、負担の公平化の観点から、被用者保険について、被保険者の総報酬額に応じたものとしていくべきであるが、後期高齢者支援金の全面総報酬割の状況も踏まえつつ検討すべきである。」としている。

 これは、介護納付金そのものを拡大するのでなく、医療保険者間での負担の配分の問題である。現行の人数割から総報酬割にすれば、平均給与の高い企業の健保組合ほど負担が重くなり、協会けんぽの負担が軽減される分、協会健保への国庫補助が不要になる。

 この国庫補助削減分を当て込んで、先の低所得者の第1号保険料の「軽減措置」の財源としようという魂胆である。厚生労働省によれば、消費税増税時の低所得者の保険料軽減の財源の所要額は1300億円という。まさに現役世代の負担増で、低所得高齢者の保険料軽減の財源をねん出しようというさもしい方向である。こうした方策からは「現役世代に負担を求める以上、高齢者の給付も削減し利用者負担も求めるべき」(厚生労働省)ということになる。

 しかも、この介護納付金の総報酬割への移行については、後期高齢者支援金の全面報酬割移行とセットであり、大企業中心の健保組合の反発は必至であり、実現可能性に疑問がもたれている。

 なりゆきによっては、介護納付金の総報酬割移行ができなかったので、第1号保険料の低所得者軽減も見送りというペテンのような事態になりかねない。

 介護保険料をめぐっては、給付増がストレートに介護保険料上昇とならないよう公費負担を拡大すること、そして、低所得者については、資産・扶養等に要件をつけさせず、少なくとも後期高齢者医療保険料なみの0.1程度まで引き下げさせるよう要求していく必要がある。

 

★おわりに

 「社会保障制度改革国民会議」は、昨年の自民・公明・民主の3党による合意により成立した社会保障制度改革推進法によって設置され、消費税増税とセットで社会保障制度全体を「改革」(その実態は社会保障の解体)のために政府が講じるべき「法的措置」の内容を検討するための会議である。

 国民会議などと称しているが、そのメンバーは政府がかってに任命した有識者15人だけである。経済界など「各界代表」の意見を聞き、5月に一度パブリックコメント行っただけで社会保障を利用している当事者の意見はただの一度も聴いていない。また、この「報告書案」は、参議院選挙が終わるまでは一切報道されず、選挙が終わった直後の726日からいっせいに素案内容が報道されたが、「各論」の報告書案が公表されたのは82日、そして85日に承認、6日に安倍首相への「提出」と、まさに選挙後のどさくさにまぎれて国民の意見も聞かないままとりまとめられるものである。

 介護現場にも、そして高齢者の暮らしの場にも一度も足を運ぶことなくまとめられる「国民会議報告書」なるもので、これからの介護保険制度が決められてはならない。

 今後、政府の講じる「法的措置」をさせないことが課題となる。そして、厚労省の社会保障審議会の介護保険部会、介護給付費分科会などで具体的検討や、政府の法案検討へと舞台は移っていくことになる。

 私たちのたたかいはこれからである。

                          (文責 日下部雅喜)

 

    7月に発行した大阪社保協介護保険対策委員会編「2025年介護保険は使えない?今なら間に合う老後を守るためにできること」(介護保険ブックレット)は、今回国民会議報告に盛り込まれた内容をほぼ予想し、具体的にどうなるのかを書いています。社会保障制度改革推進法は一言でいうと、日本の社会保障制度をすべて介護保険と同じ仕組みとする、ともいえるでしょう。介護保険ブックレット、ぜひお読みください。また、ブックレットを使った地域での学習会を企画しましょう。