大阪社保協FAX通信   1019号 2012.10.29                                        

 

1016日、国保滞納処分についての総務省・厚労省レクチャーで画期的な回答〜「大阪府通知は全国で通用」「滞納処分で生活保護に転落し別の歳出を出すことになることは望ましくない。自分の庭先だけきれいにしても解決にはならない」「滞納処分で生保にいくような状況にあるとき、窮迫させるおそれがあるときは、執行停止できるのでやってほしいと会議で繰り返し言っている」

20121016日、国保料の滞納処分について、総務省・厚生労働省とのレクチャーを行い、以下のように回答を得ました。

当日の対応者は、

総務省自治税務企画課企画第一係・第二係 黒川了威係長

厚生労働省保険局国民健康保険課企画法令係 青木穂高係長、川原維弘係員

大阪社保協からは楠晋一弁護士が参加しました。

 

1. 財産調査について

@     財産調査のやり方について国税庁の通知「滞納処分にあたっての留意事項」(平成1361日付 「住民運動のための国保ハンドブック2012 61)は徴収職員を地方税や国保料の徴収担当にも徹底すべきではないか。本人に分からないように財産調査をすすめていること自体が、「滞納者の理解と協力を得ながら」行わなければならない滞納処分の進め方に反しているのではないか。

【総務省回答】

国税庁の通知は国税庁の内部通知なので、地方税に徹底することにはならない。参考にはする。もっとも地方公共団体で類する通知を作成していることもあるだろう。

 

A     国税徴収法141条は財産調査についてあくまで「その必要と認められる範囲内において」と限定し、調査の方法も財産の状況等を明らかにするために必要である範囲内に限られている(国税徴収基本通達141-1)。それにも関わらず、全国の市町村が現在行っているやり方は、例えば銀行の場合は本社、郵貯の場合はセンターに住所と氏名の一覧表を一方的に送りつけ、口座のある支店名を回答させている。これは「普遍的・一般的な調査をすべきではない」との通達に反していないか。また「普遍的・一般的」ではない財産調査を具体的にお示しいただきたい。

【総務省回答】

 本店に一括して送るというやり方は普遍的・一般的という認識はしていない。国税徴収法基本通達を逸脱することはしない。

普遍的・一般的とは、例えば全金融機関に調査を掛けるようなこと。名前と住所をリスト化することはある。

市町村内に支店を有する金融機関の本店に財産調査を行うことは法律上書いてあることではない。逐条解説にも書いていないので問題はないと考えている。

 

B     財産調査を行う際、金融機関や生命保険会社などに滞納者の個人情報を送付することになる。このような不利益情報の網羅的な送付は、個人情報保護の観点から問題があるのではないか。

【総務省回答】

国税徴収法14113号は質問検査を予定している。

審査の一材料にされることについては、提供情報、提供された情報の使い途を限定するということは考えていない。

 

C     地方税の差押えではないが、地方自治体が国税徴収法の例によって滞納処分をおこなう事ができる国民健康保険の保険料について、大阪市住之江区役所では、平成24427日に国民健康保険料の滞納者と同姓同名(漢字表記も同じ)で生年月日も同じ第三者の銀行預金の差押を行った。

*詳細は大阪市ホームページhttp://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/suminoe/0000167723.html

これは、氏名・住所・生年月日で確認するのではなく、住所が違っていても氏名・生年月日だけで確認したためである。差押えの前提である財産調査で名義人の氏名・生年月日だけで当該預金に対して差押えをおこなう事が許されるのか。少なくとも氏名・生年月日・住所の一致を求めるべきではないか。

【総務省回答】

    基本は住所、生年月日、氏名で特定。金融機関は住所が違うので違うという解答をするところもあれば、義務はないにもかかわらず、転々住所を答えてくれるところもある。

【厚労省回答】

総務省と同じ。

 

2. 滞納処分の停止の要件に該当するものに対して、自発的納税を求めることは許されないのではないか

 

徴収法基本通達153-11は、滞納処分の停止をした場合において、滞納者が自分から進んでその停止されている保険料を納付したときには、滞納している保険料に充てて差し支えないとしている。しかし、この規定を悪用して、生活保護の受給者に対して、役所が納付書を送りつけて受給前の滞納国保料について督促を行うケースが見られるが、大阪府通知のように総務省として明確に禁止する旨打ち出すべきではないか。(別掲資料「大阪府通知」)

【総務省回答】

基本的には地方税法157で処理する話。納税交渉、財産調査で実情を把握して進めるべき。自動適用ではない。なので職権主義自発的にの中身については、最低限度の生活保護費から強引に払わせるというのは成り立たない。生活保護なので不能欠損もできる。ただ、違法性の問題が出てくる。そこは徴収側のリスク。

 欠損の是非は議会で問われうる。

【厚労省回答】

 戸別訪問のみで問題となるわけではないが、個別的なケースとして問題となることはあり得る。大阪府通知は厚労省国保課の見解なので全国で通用する。

【総務省回答】

総務省としても首肯しうる。

【厚労省回答】

 厚労省としては、全国で問われれば同じように答えるので別の所で使っても問題ない。

 

3. 差押禁止債権が預金口座に振り込まれた場合の差押えについて

 

徴収法基本通達76-11によれば、給料が銀行振込みの場合、徴収法762項の差押禁止の適用はないとし、あくまで差押えにより生活の維持を困難にするおそれがある金額については、差押猶予や、差押えの解除ができるにとどまる。

 また、最高裁平成10210日判決が、差押禁止債権といえど預金口座に振り込まれると、それは受給者の預金債権に転化するので、差押禁止とはならない旨判示する。差押えの際にこれを根拠とする役所も多い。

 しかし、年金などの差押禁止債権の振込み日に、その振込み先口座を狙い撃ちで差押えし、振込み前の預金額を超える金額の差押えを行うケースが散見される。このような差押えは、差押禁止債権を原資とする差押えであり許されないとすべきではないか。

 近時民事でも、そのようなケースでは差押えを取り消すケースが見られるところである(東京地裁平成15528日判決や東京地裁立川支部平成24711日決定)。

【総務省回答】

 判例・学説が別れているところ。判例上は承継しないとするものが8件。承継するというのが1件(東京地裁平成15年5月28日)。1件というのは事件数。1審、控訴審、最高裁と続いた事件も1件としてカウント。一覧はないが、国税庁の研究論文から。ネットで取れる論文。「差押禁止財産に関する考察」谷川秀昭 税務大学校研究部教育官  http://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/57/02/pdf/ronsou.pdf

 学説上も別れている。直ちに許されないわけではない。直ちに違法にはならないと総務省は考えている。

 

(問い)財務大臣答弁、与謝野、菅の「金銭債権に転化したときに、混入していないときき継承するという答弁があるが」

【総務省回答】

 識別できるという主張はあり得る。

【厚労省回答】

 もう1点あるのは、預金口座がここだけかはわからない。財産の状況、困窮状況をトータルで見て判断するものである。

 

4. 滞納整理部門の独立は滞納処分の停止の判断を困難にするのではないか

 

 近時、滞納整理の業務簡素化のために、滞納整理という別部門を設けて、現場から切り離して業務を行っているところが増えてきている。

 このようなところでは、滞納が一定期間継続している人を一律に悪質滞納者と決めつけて差押えを強行する傾向がある。

 滞納処分の停止の判断には、個別具体的事情の把握が欠かせないのであり、滞納整理部門を現場から切り離すことは、滞納処分の停止の判断を困難にし、機械的な差押えが繰り返されるのではないか。

【総務省回答】

 徴収事務は課税事務との連携が欠かせない。自治体によって、切り離したことで、課税サイドが持っている情報を使えないこと、バトンが使えていないこともある。当然連携をきちんとしていただくということに尽きる。事務組合、広域連合にすることがブームになって、たくさん設立された。専門性が必要なので、広域連合でやるメリット、ノウハウ共有などのメリットもある。

 総務省も、こういう場に呼ばれて、話を聞いてもらえなくなったという話は、よく聞かされる。

【厚労省回答】

 国保でも機械的な差押は問題。世帯主の状況など滞納に至る前に納付相談、国保部門との連携は重要。(滞納整理部門に)行ったらどうしようもないというのは、払ってもらうしかないというのは一般論としては望ましくない。適切ではない。納税交渉を粘り強くやってもらう。

 

5. なけなしの財産を差し押さえることは生活保護受給者を生み出すだけではないのか

 

財産隠しを行っているような悪質事例はともかく、母親が生活を切り詰めて貯蓄した学資保険や、お年寄りが万一のために残している葬式代、会社にとって何とか確保している運転資金などのなけなしの財産を差押えしても、国保財政の改善にはつながらないのではないか。

 つまり、一時的に保険料は回収できるが、差押を受けた世帯の経済状態が改善しない限り、再び滞納が始まるだけである。そればかりか、差押を受けたことによって、事業や生活が立ちゆかなくなり廃業や生活保護に追い込まれる。

 そうなれば、これまで遅れ気味であったとしても一定額は納税をしていた人が、生活保護という税金から給付を受ける立場に変わってしまうことになりかねない。

 国保料滞納者がなんとか経済的に立ち直れるように滞納処分の緩和の方策を活用する方法と、国保料滞納者の滞納を一時的に解消するためになけなしの財産さえ差押をすることの両者を長期的な視野で比較した場合、どちらが自治体の財政に貢献するのかは明らかであろう。差押えを受けた人がその後どうなったのか追跡調査をしていただきたい。生活保護の受給者が多くなるようであれば、現状の政策は見直されるべきでではないか。

【総務省回答】

 滞納処分で生活保護に転落して、別の歳出を出すことになることが望ましくないことはそのとおり。自分の庭先だけきれいにいても解決にはならない。

 地方公共団体に説明することは滞納処分で生保にいくような状況にあるとき、窮迫させるおそれがあるときは、執行停止できる条文(地方税法15条の7)になっているので、その趣旨を踏まえてやってほしいと、毎年1月末の担当者会議で繰り返し言っている。注意喚起をしている。私(総務省の方)は3年目だが毎年言っている。文書にはしていない。報道に出たりしていることはない。ここに書いていることがあったらおかしいとは毎年話している。

 追跡調査は所掌外。

 

地方税法第15条の7(滞納処分の停止の要件等)

 地方団体の長は、滞納者につき次の各号の一に該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。

一  滞納処分をすることができる財産がないとき。

二  滞納処分をすることによつてその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。

三  その所在及び滞納処分をすることができる財産がともに不明であるとき。

2  地方団体の長は、前項の規定により滞納処分の執行を停止したときは、その旨を滞納者に通知しなければならない。

3  地方団体の長は、第1項第2号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その停止に係る地方団体の徴収金について差し押えた財産があるときは、その差押を解除しなければならない。

4  第1項の規定により滞納処分の執行を停止した地方団体の徴収金を納付し、又は納入する義務は、その執行の停止が三年間継続したときは、消滅する。

5  第1項第1号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その地方団体の徴収金が限定承認に係るものであるときその他その地方団体の徴収金を徴収することができないことが明らかであるときは、地方団体の長は、前項の規定にかかわらず、その地方団体の徴収金を納付し、又は納入する義務を直ちに消滅させることができる。