大阪社保協FAX通信   1010号 2012.6.14                                        

生活保護バッシングに正しく対応するために〜大生連「討議資料」を紹介しますのでぜひ活用してください。

吉本お笑い芸人の母親の生活保護受給について不当なバッシングがされ、生活保護受給額引き下げや扶養義務の強化などの動きとなっています。正しく学び、正しく対応するための討議資料を大生連が作成されました。とてもいい資料ですのでそのまま掲載します。ぜひ活用してください。

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生活保護の扶養義務に関する討議資料

お笑いタレントの扶養義務問題に関して

20126月  大生連資料

扶養(ふよう)義務(ぎむ)の範囲の国際比較)     (各国の法律の扶養に関する法律を参照)

日本

配偶者(はいぐうしゃ)間、親子間、兄弟姉妹間及びその他の3親等内の親族

フランス

配偶者間及び未成年の子に対する親

ドイツ

配偶者間、親子間及びその他の家計を同一にする同居者

スウェーデン

配偶者間及び未成年の子に対する親

イギリス

配偶者間及び未成年の子に対する親

 ●日本は、別世帯の親子・兄弟、その他の三親等内の親族に扶養義務を()している。

 ●ヨーロッパ先進国は親子であっても同一世帯に限る。三親(さんしん)(とう)は含まず。

(生活保護の歴史)                  (全生連資料より作成)

 

生活保護法

(昭和25年)

旧生活保護法

(昭和21年)

救護法(きゅうごほう)

(昭和7年)

恤救(じゅつきゅう)規則

(明治7年)

稼働(かどう)能力(のうりょく)

×

×

 

対象(たいしょう)範囲(はんい)

制限なし(無差別(むさべつ)平等(びょうどう)の原理=稼働・年齢の有無(うむ)に関係なし)

勤労(きんろう)意欲(いよく)のないものは除外(じょがい)

65歳以上の老衰者(ろうすいしゃ)、16歳以下の子、妊産婦(にんさんぷ)疾病者(しっぺいしゃ)

70歳以上15歳以下で独身の疾病(しっぺい)

扶養の範囲(はんい)

扶養の有無(うむ)に関係なし。

扶養を優先

絶対優先

絶対優先

国の責任と費用

○(75%)

○(80%)

△(50%)

×(なし)

争う権利

×

×

×

民生委員

協力機関

補助機関

補助機関

 ●旧生活保護法までは扶養が優先。扶養義務は明治時代の法律。現状に合わなくなっている。

 ●現在の生活保護法は扶養の有無(うむ)は関係ない。

 ●扶養義務は生活保護の開始(かいし)要件(ようけん)ではない。生活保護を利用後、当事者のあいだの話しあいによる。

(扶養の要件)

 @一定の親族関係にあること。A扶養権利者が要扶養状態にあること。B扶養義務者が扶養能力を持っていること。C扶養について請求があること。

(日本の扶養義務)

 ●扶養義務には相対的(そうたいてき)扶養(ふよう)義務(ぎむ)絶対的(ぜったいてき)扶養(ふよう)義務(ぎむ)がある。

 ●絶対的扶養義務には、保持(ほじ)義務(ぎむ)関係扶助(ふじょ)義務(ぎむ)関係に分かれるタレントK氏は扶助義務者

 ●保持義務関係は配偶者(はいぐうしゃ)間と同一世帯の親子で子どもが未成熟(みせいじゅく)(まだ働ける状況にない子)の関係。「パンの一片(いっぺん)も分け与えてでも扶養をおこなう」(『生活保護の解釈と運用』)もの。

 ●扶助義務関係の扶養義務者は、まず自分の生活を第一に考え、その上で当事者間の話しあいによって扶養援助を決める。K氏の場合はこの手続きをふまえている

 ●話しあいがつかない場合、保護実施機関が家庭裁判所に申し立てをする。K氏は母親との話しあいがついており、福祉事務所も扶養する金銭の援助額を了承(りょうしょう)していた

 ●扶助額を正しく収入申告をしていれば返還(へんかん)はしなくてよいはず。もし、保護費を返還するとすれば生活保護を利用している本人がおこなうもの。扶養義務者のK氏が返還(へんかん)するというのは意味(いみ)不明(ふめい)

 ●『生活保護の解釈と運用』(小山進次郎著)=「(扶養)義務者その者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえで、なお余裕があれば援助する義務」がある

(生活保護法第77条)

 被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行(りこう)しなければならないものがあるとときは、その義務の範囲内(はんいない)において、保護費を支弁(しべん)した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収(ちょうしゅう)することができる。

 2.前項(ぜんこう)の場合において、扶養義務者の負担(ふたん)すべき(がく)について、保護の実施(じっし)機関(きかん)と扶養義務者の間に協議(きょうぎ)調(ととの)わないとき、又は協議をすることができないときは、保護の実施機関の申し立てにより家庭(かてい)裁判所(さいばんしょ)が、これを定める。

(当事者間の実態(じったい)無視(むし)して扶養義務が強化された場合、どうなるか)

 ●生活保護を利用している世帯の多くは親族(しんぞく)貧困(ひんこん)世帯(せたい)が多い。K氏のような収入のある人は(まれ)である。たいていは親族との交流がなく、「孤立(こりつ)無縁(むえん)」の中で生活している人が多い。

 ●K氏のような特殊(とくしゅ)事例(じれい)一般化(いっぱんか)して実態を無視(むし)し、強権的(きょうけんてき)な扶養調査と強要(きょうよう)をおこなえば、生活保護の利用をためらう人が出る。あらたな「水際(みぎわ)作戦(さくせん)」となりうる

(扶養義務の強要は生活保護の補足率(ほそくりつ)をさらに低下(ていか)させる)

 ●日本の生活保護の補足率(生活保護以下の世帯のうち生活保護で対応(たいおう)している率)=20

 ●小宮山厚労大臣=扶養義務者への「証明義務」の強制は憲法違反。保護率をさらに低下させる。

(異常に低い日本の生活保護の捕捉率)(『生活保護「改革」ここが焦点だ!』より)

 

日本

イギリス

フランス

ドイツ

捕捉率

1520%07年)

90%08年)

91.6%08年)

65%(08年)

(税金に関して)

 ●近代的税制=@高度(こうど)(るいしん)税制(ぜいせい)、A所得(しょとく)再配分(さいはいぶん)K氏の税金を正しく社会保障に再配分すればよい

 ●生活保護予算3兆円は脅威か? 保護費はすべて生活するのに使うお金、地域経済がうるおう。

 ●思いやり予算、ダム工事、高速道路工事、政党助成金で地域経済はうるおわない。

(不正受給に関して)

 ●2009年全国の件数=保護世帯比1.54%(98.46%は正常に執行されている)

 ●2010年大阪市内の件数=保護世帯比2.27%。予算比の0.9%(告発16件 起訴は3件)

 

 

★参考文献『生活保護の解釈と運用』(全国社会福祉協議会)『誰も書かなかった生活保護法』(法律文化社)、『これが生活保護だ』(高菅出版)、『生活保護「改革」ここが焦点だ』(あけび書房)